魚の鰭の名称

鰭は遊泳やブレーキ、方向転換、姿勢維持など、魚にとって重要な役割を担っています。また、魚の鰭は種を同定する上で欠かせない形質の1つでもあり、多くの分類群の同定形質として用いられています。この記事ではお主な鰭とそれに関連する用語について解説します。
各鰭の位置
ハシキンメの鰭条
魚の鰭は背鰭、臀鰭、胸鰭、腹鰭、尾鰭からなります。鰭は鰭条と呼ばれる棘条と軟条、或いはどちらか一方からなり、鰭条の間には鰭膜(きまく)という薄い膜があります。棘条は名前の通り棘のような構造で硬くて丈夫なのが特徴ですが、種によっては棘条が弱く軟条と区別しづらいこともしばしば。アイゴ科やハオコゼ科の魚は棘条に毒を持つので注意が必要です。
軟条は筋のような構造があり柔軟性に富むことや、先端にかけて数本に分枝することが特徴です(分枝しないものもある)。軟条が糸状に伸長する種は近縁種との識別に用いられることもあります。鰭膜は透明であることもあれば、模様がある種や鱗が覆うタイプの種もいます。種によってまちまちですが鰭膜は非常に破れやすいので扱いに注意が必要です。
背鰭は名前の通り背面に位置し、種によっては起部がかなり前にあるものや後方にあるものもいます。数は1基または2基であることが多いですが、タラ科の一部とヘビギンポでは3基の鰭を持ちます。背鰭は種によって多様性が高いのも特徴で、アンコウ科のように疑似餌へと進化させた魚もいればタウナギ科背鰭を持たない変わった種もいます。
臀鰭は1基であることがほとんどですがタラ科の一部のように2基持つ種もいます。肛門の後方にあり、種によってはかなり後方に位置します。
ホテイエソ.背鰭と臀鰭が後方に位置する
胸鰭は体の前方に位置し左右の体側に1つずつあります。胸鰭はほとんどのグループでは軟条のみからなりますが、ゴンズイ科などは胸鰭に棘条を持ちます。また、ウツボ科のように胸鰭を持たないグループもあります。
腹鰭は胸鰭と同様、左右の体側に1つずつあります。体の中央から前方に位置することが多いですが、中には後方に腹鰭を持つ魚もいます。ギマという魚は腹鰭が1棘のみからなります。アイゴの腹鰭も変わっており1棘3軟条1棘という特殊な形質を持ちます。
尾鰭は体の一番後ろに位置し多種多様な形があります。代表的なものに二叉形、湾入形、円形があります。また、一部を除くウミヘビ科は尾鰭を持ちません。
鰭の名称
画像の魚はアヤメカサゴというメバル科に属する魚です。背鰭が1基(1つ)、尾鰭、臀鰭、胸鰭、腹鰭で構成された基本的な形の一つです。このうち胸鰭と腹鰭は左右対称となっており対鰭と呼ばれているのに対して、背鰭、臀鰭、尾鰭は不対鰭(垂直鰭)と呼ばれています。また、これらの鰭は英名の頭文字を取った略称がありそれぞれ以下のように表すことができます。
背鰭(Dorsal fin) | D |
臀鰭(Anal fin) | A |
胸鰭(Pectoral fin) | P1 |
腹鰭(Pelvic fin) | P2 |
尾鰭(Caudal fin) | C |
胸鰭(Pectoral fin)と腹鰭(Pelvic fin)は頭文字が被っているため、数字を付けて区別されています。鰭の略称はよく使われるため覚えておくと大変便利です。他にも魚の部位は英語で略されることが多く、中には複雑なものもありますが今回は鰭の解説なので省きます。
ここまで出てきた用語を以下の表にまとめました。
各鰭の読み方
対鰭 | ついき |
不対鰭 | ふついき |
背鰭 | せびれ・はいき |
臀鰭 | しりびれ・でんき |
胸鰭 | むなびれ・きょうき |
腹鰭 | はらびれ・ふくき |
尾鰭 | おびれ・びき |
棘条 | きょくじょう |
軟条 | なんじょう |
鰭を式で表す
魚の鰭は鰭式(きしき)という式で表すことができます。鰭式では先程の”鰭の略称”に加え、棘条をローマ数字(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ…)、軟条をアラビア数字(1,2,3…)で表します。棘条と軟条は”,”で区切ります。
背鰭または臀鰭が1基の場合
ソコイトヨリ(赤い矢印が棘条、青い矢印が軟条)
今回は写真からでも鰭が観察しやすいソコイトヨリを例に背鰭と臀鰭を鰭式で表してみます。それぞれ赤い矢印が棘条で青い矢印が軟条です。
それぞれの棘条と軟条を数えてみます。最後の軟条は2本に見えますが根本で1本になっているので1本と数えます。すると背鰭が10棘9軟条、臀鰭が3棘7軟条であることが分かります。背鰭の略称はDなので背鰭は”D Ⅹ,9”と表すことができます。同じように臀鰭は”A Ⅲ,7”と表せます。
背鰭または臀鰭が2基以上ある場合
背鰭または臀鰭が2基以上ある場合は鰭式が少し変わります。
この魚はソコイトヨリよりとは異なり背鰭を2基持ちます。この場合、第一背鰭と第二背鰭の鰭式の間に”-”を入れます。つまりこの魚の背鰭の鰭式は”D Ⅶ-Ⅰ,9”となります。