変わってる魚「カワリハナダイ」を食べる

2024/07/01
 
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標本作成にドハマりしてからというもの、入手した魚は標本にすることが多い。しかし、魚を食べたいという欲求は失われていない。標本作成中であっても目の前にある魚の味について考えている。

 

 

特に変わった魚を手入れたときは「変な魚の味が知りたい」と「変な魚は標本にすべき」という迷いが必ず生じる。変わった魚というのは大抵珍しい種であり、小売店で手に入れることは非常に困難だ。変わった魚を入手するのであれば自分で採集するか、採集の現場(漁船など)に立ち会うしかない。もちろん、これらの方法でも変わった魚に巡り合えるとは限らず、運と実力が必要になる。となると、やはり食べてしまうよりも標本化に軍配が上がってしまう。

 

 

しかし、これはあくまでもサンプル数が少ない場だ。変わった魚でも数が獲れれば1匹くらい食べても問題ないと思う。今回、有難いことに知人が釣り上げたカワリハナダイという魚を3個体譲っていただいた。カワリハナダイ級の珍魚は通常であればオール標本化が望ましいが、欲望に負けて1匹食べることとなった。なお、3個体中一番大きい個体と一番小さい個体はきちんと標本にした。

 

 

ちなみに、半身を食べて残りを標本にするという食用と標本用が拮抗しないハイブリッドな方法も存在する。そんなのありか?と思うかもしれないが結構よくあることなので、迷ったらこの方法がベストだろう。

 

 

 

 

どこが変わっている?カワリハナダイ


カワリハナダイたち。今回は真ん中の個体を食べる。

 

 

カワリハナダイとかいう魚、名前にハナダイと付くのでハタ科かと思いきやカワリハナダイ科という独立した科に属する。とはいえ、魚類検索ではハタ科の隣に載っていることから比較的ハタ科に近縁なのかもしれない。

 

 

カワリハナダイ科は日本から3種が知られており、ツキヒハナダイ、パラオハナダイ、そして本種。いずれも深場の岩礁に生息する珍しい種で僕自身カワリハナダイ科を見るのは今回が初めてである。九州-パラオ海嶺のみから記録があるパラオハナダイに関しては僕の人生でお目にかかることすら難しいだろう。

 

 


標本にした一番大きいカワリハナダイ。撮影後に博物館へ寄贈した。

 

 

さて、カワリハナダイだが色彩からツキヒハナダイとは容易に区別することができる。よく似たパラオハナダイとは側線有孔鱗数で区別できるが、鱗を数えるのがなかなかに面倒。ざっとではあるが47枚よりかは多そうなのでカワリハナダイ良さそうだ。分布的にもパラオではないだろうという判断もある。

 

 

和名のカワリとは恐らく「変わり」という意味だろう。とはいえ、パッと見た感じ変わった要素は見当たらない。正直いってデカいヒメハナダイにしか見えないし、改めて瞬時にカワリハナダイと識別した知人はすごいと思った。

 

 

 

 

2、3分観察したものの、やはりどこが変わっているのか全く分からない。ひょっとするとこの状態では観察できないこと、例えば生時の特徴や生態が変わっているのかもしれないし、味が変わっているのかもしれない。いずれにせよ、早く食べたいので、同定も兼ねて魚類検索をチラ見する。使用するのは一冊目、ほぼ使ったことがない科の検索の項。

 

 


カワリハナダイの顎

 

 

どうやらカワリハナダイの変わっているポイントは下顎の口角付近にある盛り上がり。確かに見れば見るほど変わっている。しかし、地味だ。わかりづらい。どうりで見つからなかったわけだ。もちろん、カワリの由来がこの形質かは定かではない。知っている人がいたら教えてほしい。

 

 

珍しい魚なので食べる前に右体側の腹鰭をDNA解析用にカットして90%程度のエタノールに漬けておく。お世話になっている先生が「珍しい魚とか食べたいこともあるだろう」とDNA解析用に保存容器を寄越してくださった。

 

 

いただいた当初は「基本的に魚は食わないのでそのような物は要りませんよ」と言っていたが早速使う場面が来てしまうとは。。。小指の先程だが、僕のような人間でもこうして魚類の研究に貢献できてることが非常に嬉しいのである。

 

 

 

 

カワリハナダイを食う


鱗を取ったカワリハナダイ

 

 

鱗は細かくてやや硬めな感じだが、一度剥がれはじめたら止まらない。体に指を這わせるとぺりぺりと剥けていく。身は柔らかすぎず硬すぎずといったとろこ。小さいながら皮はしっかりとしており、見るからにうまそうである。

 

 

刺身


皮の色が美しい

 

 

今回のこの個体は釣獲された個体であり、鮮度に関してはこれ以上望めないほど良好である。となれば、まずは刺身で食べる他ないのではないだろうか。

 

 

赤い魚は皮を残した方が美しい為、皮の色彩が残りやすい湯霜造りにする。身は程よい軟らかさで、尚且つ旨味がなかなか強い。皮は思いのほか歯切れがよく、皮と身の間に旨味が感じられる。味は至って平凡。よくある美味しい魚の味だ。カワリハナダイの名前の由来が変わった味に因むことも少し考えたが、その説はないようだ。

 

塩焼


焼くと良い匂いがする

 

 

さて、生食ときたら次は加熱して食べる他ないだろう。

 

 

同じ魚でも生と焼きでは印象がまるで異なるし、生では不明瞭だった風味が焼きで豊になることもある。残りの半身に塩を多めにふり、骨ごと塩焼にしてみた。焼き上げると焦げた鰭と皮から香ばしい香りが漂ってくる。

 

 

皮は薄いものの割としっかりしており、皮下に旨味がある。これは生の時にも感じたことだ。身質はしっとりきめ細やか。食味の近い魚がいるような気がするが、残念ながら僕のデータにはないようだ。

 

 


 

カワリハナダイとかいう魚。予想以上に美味しくてびっくりした。中型種であるため食用として流通することはあまりないだろうが、大型になれば高級魚として名を轟かせていたかもしれない。そんな風に思わせてくれる魚でした。魚を売ってくれたK君に感謝。

 

 

 



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