ギマとかいう安くて旨い魚を食べる
先日、飲食店を営むお知り合いからギマという変わった魚をいただいた。なんでも相模湾の定置網で漁獲されたものらしく、丁寧に活締めまでされているではありませんか。
一見、なんの変哲もない魚ですが、魚好きなら跳ねて喜ぶレベルの魚なのです。なぜなら、この魚を食べたことのある人ならばご存じかと思うが、コイツめちゃくちゃ美味しい。
私がギマを手に入れるのは実に2回目、4年ぶり。しかも、前回は蒲郡市の小売店で買った野締め個体(それでも美味しかった)であり活締め個体は初の入手。それも地元産となるとテンションも自然と上がってしまう。
ギマはフグ目の魚
ギマなんて変わった名前が付いた魚ですが、これは地方名などではなく標準和名です。ギマの名前の由来については諸説があるようで、一説には銀馬が転訛したとも言われています。ちなみに産地の一つである蒲郡市ではツノギマとも呼ばれているようです。
本種はフグ目ギマ科ギマ属に属する魚で、日本各地の浅海に生息します。FishBaseではギマ科の魚類は世界で4属7種が有効とされていますが、日本のギマ科魚類は本種のみが知られています。さらにギマ属は世界に2種おり西太平洋に広く分布するTriacanthus biaculeatus(標準和名:ギマ)と南シナ海、マレー半島、ボルネオ島、インドネシアやオーストラリアなどに分布するTriacanthus nieuhofiiが知られています。このTriacanthus nieuhofiiは日本からは今のところ記録されていません。
ギマはその色と形から他のフグ目魚類とは明らかに異なりますが、本種最大の特徴は3本の強大な棘でしょう。3本の棘うち1本は背鰭第1棘であり、他の背鰭棘より明らかに長くよく目立ちます。後の2本は腹鰭棘にある1対の腹鰭棘です(本種の腹鰭は1棘のみからなります)。他にも地味な特徴ではありますが、フグ目では珍しく尾鰭が2叉することも特徴です。同じく腹鰭に強い棘を持つフグ目はベニカワムキ科の魚が知られており、尾鰭が二叉するフグ目はウチワフグが知られています。
ギマは主に底引き網・定置網・釣りで漁獲されるものですが、棘が絡んで網から外しずらいことやヌメリを大量に分泌することから、少し嫌われています。産地では市場・小売店に流通することも多々ありますが、その他の地域で見かけることは稀です。私が過去に行った蒲郡市ではよく見られるもので、直売所ではそのまま売られていましたが、スーパーではご丁寧に皮を剥いだ状態で売られていました。当時、値段は中サイズが一尾200円程度でしたが、仲買さん曰く少しずつ値段が付くようになったと言います。私のホームである相模湾では、ギマは馴染みがなくスーパーや魚屋で見かけることはまずありません。たぶん、これはまとまって獲れる魚ではないからだと思う。
ギマの食べ方
ギマは大量の粘液を分泌するため下処理も一苦労ですが、今回の個体は活締めされておりほぼ粘液が出ていません。知り合い曰く、活締めすると粘液が緩和されるそうです。加えて活締めは肝臓に血が回らないというメリットもあるので可能であれば積極的使いたい技です。特にギマのような魚は肝が美味しい魚ですから尚更ですね。
次は頭を落として皮を剥いでいきます。若干、力は要りますが、頭から尾にかけて皮をむけば簡単に剥くことができます。中らからはデカい肝臓と小さめの卵巣が出てきました。活締めされた個体なだけあって肝臓が綺麗ですね。この肝臓はひとまず氷水で軽く洗います。皮を剥いたらあとは普通の魚と同じように三枚に卸すだけの簡単な作業です。
刺身
新鮮なギマが手に入ったのであれば、一番おすすめしたい料理はやはり刺身です。肝はそのまま食べても旨いですが、叩いて肝醤油にして食べると良いです。身は濁った白色やや固めで旨味はそこまで強くないものの、肝がコクとなり非常に美味しいです。
煮付け
ギマ料理でもう一つ美味しいのが煮付けです。こちらは蒲郡市で市場巡りをした時に仲買さんから教えていただいたものです。当時、フグ目魚類を煮付けで食べることに驚いてた私であったが、どうやら定番の料理らしい。皮を剥いたら十字に切れ目を入れて熱湯をかけます。煮汁には色々な銘柄の醤油を混ぜたものに砂糖をたくさん入れ、こってりとした濃い味で煮付けにする。身は硬くなってしまうもの嫌な硬さではなく決してパサつかない。煮汁と肝の相性もとても良く、煮汁の染みた肝と身を一緒に食べると絶品でした。
産地以外ではなかなか手に入らない魚ではありますが、釣り人や漁業関係者であれば見る機会は少なくないのではと思います。非常に美味しい魚ですので見かけた際には是非とも食べていきたい魚です。