フウセイを食べて金運を上げる

例によって今年の年末もやることがなかったので、アメ横へ魚介類を見に行っていた。
アメ横の魚介類といえば格安のマグロの冊やウニ、イクラ等が色々な意味で有名だが、僕の目的はフウセイ(Larimichthys crocea)と呼ばれる魚である。と言うのも、去年のクリスマスに立ち寄ったアメ横で生のフウセイを見かけたのだが、諸事情により食べることができず一年間モヤモヤしていたのだ。
当時、お店の人に生のフウセイはいつもあるのか?と尋ねたところ、「これ(フウセイ)は年末だけ」と言っていたので、今年も様子を見に来た次第である。
今回もフウセイ発見
今年で二回目となるフウセイチャレンジは12月29日。去年、アメ横でフウセイを発見したのが12月25日なので今年は4日遅いことになる。フウセイが年末の魚とはいえ現在ド年末。もしかしたらフウセイの仕入れがないかもしれない。そんな不安と共に上野駅へ向かう。
年末のアメ横はテレビで見たように多くの人々で溢れかえっており、数時間前に参加していたコミケが可愛く思えるほどであった。しかし、幸運にもお目当ての魚屋は駅から比較的近い場所に位置しているため、15分程度で到着。陳列棚の一番目立つ位置にその魚はいた。
ニベ科特有の体型に加え日本の魚ではあまり見ることのない黄金色。商品名は書かれていなかったが間違いなくフウセイ(大黄魚)である。フウセイはすべて、黄色が強い腹側を上にして陳列されていた。この陳列は去年も同様であったため、フウセイを売る時はこのスタイルがスタンダードなのだろう。
また、銀色のバットに氷、その上に黄色のビニールが敷かれていた。こちらも同様に去年も見られた売り方である。サンマなんかは鮮度感を際立たせるためにギラギラのビニールに包んで売っていると、誰かから聞いたことがあるが、フウセイにおいて黄色いビニールは同様の役割を持っているのかもしれない。
そうなると、より黄色いフウセイ=よいフウセイという認識が僕の中で出来上がり、どうせ買うなら一番黄色いものがよいだろうと一番奥にあった一番黄色い個体を選んで購入した。そのお値段1匹1000円。
今回、陳列されているフウセイを撮影させてもらったが、アメ横では地下食品街のように撮影が禁止されている場所もあるので、お店の人に声かけてから撮影したほうがトラブルにならずに済むだろう。ちなみに現場の写真は撮っていないが、フウセイのほかにもニベ科はコイチ、冷凍のキグチ(黄花魚)が地下食品街で売られていた。冷凍キグチは購入したのでいつか食べたいと思う。
フウセイが家にきた
魚類検索を用いてニベ科を同定する時、いつも目にしていたフウセイ。名前が特徴的なので妙に記憶に残る魚の一つだ(韓国語のプセイが由来らしいけど本当かな?)。
魚類検索によるとフウセイは長崎県、東シナ海、渤海、黄海、朝鮮半島などに分布するとある。本種は東シナ海で多産する魚で、かつて、盛んであった以西底底曳網により国内でも水揚げがあったが1970年代に衰退。以西底曳網衰退の原因は資源の減少、労働者不足、燃料の高騰、国際漁業規約の強化などとされている。
そんなこんなで、フウセイは現代の我々に全く馴染みのない魚となっている。恐らく馴染みが無さ過ぎて現物を見ても「フウセイだ!」となる人は魚のオタクを除いてほとんどいないだろう。モノクロの図でしか知らなかった魚が目の前にあることに高揚するが、それと同時にそれ程までに貴重な魚が1000円で買えるのだろうか?といった疑問が浮かび上がる。
気になってフウセイについて調べてみると、中国ではフウセイが重要水産資源であるが故に、乱獲で個体数を激減させていたことが分かった。そのためか、フウセイは中国で大規模な養殖が行われており、流通しているフウセイはほとんどが養殖ものだという。現在も天然のフウセイが漁獲されることがあるが、養殖とは比較にならない価格で取引されるようだ。養殖フウセイと天然フウセイには体型(天然のほうがシュッとしている?)、鰭の形状、色味などの違いがあるようだが、今回、僕が購入したフウセイが養殖物なのか天然なのかは不明である。
とはいえ、ただでさえ中国で需要の高いフウセイだ。しかも天然物が日本で1匹1000円で売られているとも考えづらい。型も揃っていたので恐らく養殖物だろうと推測している。もちろん、天然じゃなきゃヤダという訳ではない。養殖と知ってショックを受けていないと言えば嘘となるが、フウセイであることには変わりがないのだ。
今更だが、今回、フウセイを食べようと思った理由は単に「食べたかったから」だけではない。実は年末に新たなカメラを購入した結果、口座からごっそりお金が無くなっていたのだ。そうなると是が非でも来年の金運を上げたいところである。中華圏においてフウセイは特別な日に食べる魚ということは去年の来店時に学習済みだ。加えて、黄金に輝くフウセイの体色。正直、この魚が本場で金運アップに用いられているかは不明だが、少なくとも僕はこの魚を食べれば来年が良い年になる予感がしている。
フウセイを食べる
さて、いよいよフウセイを食べていく。どんな料理にするか迷ったが、半身は中華料理の王道「清蒸魚」、もう一方は「家焼魚」という料理にして食べることにした。今更だが、魚屋の方に美味しい調理方法を聞いておけばよかったと後悔している。
すごい偏見かもしれないが、アメ横の魚は鮮度悪いというイメージが自分にはある。実際、ひどい状態の魚を売る店もあるし、悪い評判はネットにいくらでもある。
幸いにも、今回、買ったフウセイは比較的鮮度がよく、身の張りもよければ、変な匂いもない。腹身に内蔵の色も移っていなかった。加えて、脂の乗りもよく1000円という値段は安いのでは?と錯覚するほどである。鮮度的には刺身で食べることができそうだったが、フウセイ初心者の僕は当初の予定通り加熱して食べることにした。
清蒸魚(チンジャンユー)
中華料理における魚料理の王道「清蒸魚」の作り方はいたってシンプルだ。その上、大きな魚を丸ごと簡単に調理できてしまうので、見た目の豪快さも魅力の一つだろう。
魚の内臓を取り除き、必要に応じて頭を落とし、よく洗ったものを青ネギの上に乗せる。生姜は魚の上に乗せるか、腹の中に詰めるかしたらフライパンに蓋をして蒸すだけ。レシピによっては電子レンジで作れるものもあるが、個人的にはフライパンで作ったほうが美味しいのでこの作り方を採用した。どっちにしろレンジにフウセイ入らないので。
蒸し上がるまでにかかる時間は10分程。蒸した魚を皿に盛りつけたら、醤油、酒、砂糖、コショウで作ったタレをたっぷりとかける。さらに刻んだネギやショウガ、好みでパクチーを乗せ、その上から熱々のごま油をかければ完成。この熱した油をかけた時のジュっという音も食欲をそそる。
生のフウセイは比較的しっかりとした身質だったが、加熱するとふんわり系の身質となり、箸でつまむと簡単に崩れてしまうくらいだ。皮はゼラチンを強く感じるが、意外にも脆く少し擦ると簡単に剥げてしまう。身はうま味があり、甘辛のタレ、ごま油との相性も良くご飯がよく進む。
家焼魚(ジャーシャオユィ)
家焼魚(中文では家烧鱼)はフウセイを購入した当日、インターネット上で発見したものである。なんでも、台州市の家庭料理のようで、清蒸と異なり日本語のレシピはほとんどない。中国語の家烧鱼で検索すればレシピがいくつか出てくるのでそちらを参照する必要がある。
レシピ曰く、使う魚は台州市でお馴染みのキグチに加えて、シマガツオやコノシロなど、人によってはミズテング属の魚を使用したレシピも存在した。自分の場合はフウセイを使用してこの家焼魚を作っていく。
まず、フライパンに油(ラードを使用するとコクが生まれる)、ネギ、ニンニク、ショウガを入れて加熱する。いい感じに香りが出てきたら魚を入れて揚げ焼きにしていく。焼き目がついたら魚にかぶるくらい熱湯を注ぎ、よく火にかけて油と水をよく混ぜる。この過程でスープが乳化して白濁するようだ。
やや白濁が足りないと思いつつあまり時間もかけられないので、一旦、これにて完成とした。ニンニク、ショウガ、ネギを使っているだけあって香りがとてもよい。やはり、身は柔らかいものの味はかなりいい感じである。
ところで、この家焼魚だが、レシピを見返すと小さめの魚を丸ごと使っていることが多い。清蒸が大型の魚を丸ごと使った豪快な料理ならば、家焼魚は小さめの魚を使った手頃な料理といった感じかもしれない。次回は冷凍のキグチを使って家焼魚を作りたいと思う。
フウセイを食した後、早速、宝くじを1セット購入した。来年の今頃は当選金を元に天然フウセイを手にしているかもしれない。