ツノダシを食べる

最近、仲良くさせていただいてる採集家の方から相模湾産ツノダシを2個体もいただいた。僕は泳げないので魚の採集はもっぱら釣り、市場、漁船に限られている。そのため、釣りや市場採集では入手し辛い魚(ツノダシなんてまさにその例)を供給してくださる、採集家の協力者は大変有難い。
ツノダシ自体は相模湾に普通にいるけど、見つけたところで釣るのはかなり難しい。少なくとも僕は釣ったことがないし、周りでも釣ったという者はいない。あとは、漁業で獲れなくもなさそうだが、入網する確率が低そうだしこの手の魚はスレで状態が悪くなりそうである。とはいえ、ツノダシは潜り採集でも採集するのは困難らしく、ベテランでもやや苦戦することもあるようだ。なんでも、ツノダシは泳ぐのが早く、近くに岩礁がある場合にはすぐにそちらへ逃げられてしまうらしい。
それで、そんな貴重なツノダシを2個体いただいた訳。1個体は標本にするとして、もう一個体はどうしよう悩んだ結果、食べてみることにした。事前に調べて拝見したネット上の評価は2つに割れているので、食味を確かめたいと思う。
ツノダシと
ツノダシはスズキ目ツノダシ科の海水魚で、某アニメ映画だとギルというキャラでお馴染みらしい。独特な体型と色彩パターンもさることながら、突出した吻部や非常に長い背鰭第3棘もかなり特徴的である。
標本にした方のツノダシ
色彩と体型はチョウチョウウオ科のハタタテダイ属に酷似するが、どうやら別の科(ツノダシ科)に属する魚みたいだ。しかも、このツノダシとかいう魚、こんな見た目でニザダイ科に近いという変わり者。さらに、ツノダシ科の魚はツノダシ属ツノダシの1属1種のみが知られている小さなグループだ。名前も姿もメジャーな魚だけど、調べると結構変態な一面もあり面白い魚である。ツノダシはインド・太平洋に広く分布し、国内では千葉県以南の浅い岩礁域で普通に見られる他、2000年には青森県八戸市の定置網からも記録されている(改訂青森県産魚類目録)。
宮之浜のツノダシ、波打ち際にいることもある
このツノダシが食用として漁業の対象になることはなく、専門で釣る人も恐らくはいない(食用で流通してたら教えてください)。主にツノダシは飼育用で流通し、国内外から生体の供給がある。
試しに「ツノダシ 値段」と安直な検索をかけたら、価格は約2,000~4,500円くらいらしい。産地や大きさで値段が変わるのだろうか。鰭欠けがあるのは安いようである。そういえば、昔見たツノダシも背鰭の伸長部が欠けていた、どうやら欠損しやすい部位のようだ。
ついこの前までツノダシの和名の由来って「ツノみたいに伸びた背鰭」と勝手に思ってたのだけど、どうやら眼隔部にある1対のツノが由来っぽい。今回の個体は眼隔部のツノが不顕著であった、魚類検索によるとツノは未成魚ではないらしい。とろこで、ツノダシって英名ってなんだろうと思って、何気なくFish baseを見たら”Moorish idol”と判明。面白い英名だなあと感心はしたものの、由来は詳しくは調べてはないので不明である。ただ、これ関係で面白い英名の魚をもう1種発見。False moorish idolというのだけど、この魚の標準和名はムレハタタテダイ。Falseは”偽の”や”間違った”という意味なので、偽のツノダシという意味だと思う。同じくFalseが付く魚にはアクタウオ(False trevally)がいる。話が大分逸れてしまったけどいよいよツノダシを食っていく。
ツノダシの食べ方
ツノダシは普通の魚のような鱗ではないため、鱗は落とす必要はない。体表は触るとザラザラとしており、ニザダイを彷彿とさせる感触だ。見た目は全然似ていないけど、触り心地でニザダイを感じさせてくれる。反対にハタタテダイとは色彩こそ似ているものの、鱗の感じは全くの別物であることから全く別のグループなんだなと。
あと、現物を初めて観察して気づいたんだけど、口も結構面白くて歯がかなり発達していて特徴的。この歯でなに食べてるのかなと調べたら藻類を食ってるらしい。それはなかなか釣れないわけだ。
皮が硬くて包丁の刃が通りづらそうである、こういうのは三枚におろす前に皮を剥くのがよいと教わったのでその通りにしようと思います。前方に切れ目を入れ尾に向けて皮を剥けば案外簡単に向けてくれる。身はこんな感じ、皮剥いても薄っらと模様がわかるね。ニザダイみたいに弾力のある身。指でつまんでもそう簡単には崩れない。
刺身
一時間くらい前まで生きていたのでもちろん刺身でいただく。独特な香りはあるが、ネットの評価で見るような臭さはあまり感じられない。小さいながら旨味もそこそこあるし結構美味しい。分類的にはニザダイに近いそうだけど味は全く異なる。
塩焼き
続いては半身を塩焼きにしていただく。焼くので皮はそのまま残しました。焼くとさっき感じなかった香りが少しわかってくる。ただ、決して嫌な臭いではなく、あくまでも正統派の魚の匂い。これを手で毟りながら皮ごと食べる。皮はやや分厚いので口の中でも少しもしゃもしゃするが、そこまで気にならない。体の身が薄いので食べ応えはないが、しっかりと旨味があってなかなか美味しい。胸の筋肉は結構発達していて風味も体の肉と少し異なる。こっちはそこそこ食べ応えもあって美味しい。カリカリに焼けた背鰭と臀鰭ももちろんいただく。
ツノダシ美味しい魚でした。身が薄いので小型個体では食べるところがほとんどないのが残念。丸揚げとかにしたら意外と美味しいかも。